2023年後半 - Web制作者としての日常と、感じ始めた限界
第3部でお話しした通り、私は33歳で未経験ながらWeb制作会社に転職し、Webデザイナー兼コーダーとしての日々をスタートさせました。最初は覚えることばかりで毎日が必死でしたが、上司や先輩に助けられながら、徐々に実務にも慣れていきました。自分でデザインしたものが形になり、クライアントに喜んでもらえる。それは、商社時代には感じたことのない、確かな「手応え」でした。
しかし、業務に慣れてくると同時に、新たな壁も見えてきました。それは、制作時間の限界とアイデアの枯渇です。LP制作案件が増えるにつれ、タイトな納期に追われる日々。デザインの引き出しも限られており、「また同じようなレイアウトになってしまう…」と悩むことも少なくありませんでした。会社員である以上、労働時間には限りがあります。もっと効率的に、もっとクオリティの高いものを作りたい。でも、どうすれば…? そんな漠然とした課題感を抱えていました。
衝撃!ChatGPTとのファーストコンタクト
そんな悩みを抱えていた2023年の秋頃だったと思います。業界のニュースサイトやSNSで、にわかに「ChatGPT」という言葉を目にするようになりました。「人間のように自然な文章を生成するAI」「プログラミングコードも書けるらしい」…最初は半信半疑でした。「AIがクリエイティブな仕事なんてできるわけない」と、どこか高を括っていたのです。
初めてChatGPTに触れた日の衝撃
ある日の業務後、興味本位でChatGPT(当時はGPT-3.5が主流でした)にアカウント登録し、試しにこんな質問をしてみました。
私:「HTMLとCSSで、シンプルな3カラムレイアウトのコードを書いてください。」
数秒後、画面に表示されたのは、完璧な構造のHTMLと、美しく整形されたCSSコードでした。しかも、丁寧なコメントまで付いています。私は、文字通り言葉を失いました。
「…なんだこれは? 俺が数時間かけて四苦八苦する作業を、AIはたった数秒で…?」
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。それは、恐怖と興奮が入り混じった、今まで感じたことのない感覚。この日を境に、私のAIに対する認識は180度変わりました。「これは、使い方次第でとんでもない武器になるかもしれない」と直感したのです。
Claude、Perplexity…続々と現れるAIアシスタントたち
ChatGPTとの出会いをきっかけに、私は生成AIの世界にのめり込むように情報を集め始めました。すると、ChatGPT以外にも様々な特性を持つAIツールが存在することを知ります。
私の働き方を変えた主要AIツール
- ChatGPT (OpenAI): コーディング補助、文章作成・校正、アイデア出し、壁打ち相手など、オールマイティな相棒。特に複雑なJavaScriptのロジックや、エラーの原因究明で絶大な力を発揮。
- Claude (Anthropic): より長文の読解や生成に強く、自然な日本語表現が得意な印象。仕様書やドキュメントの要約、ブログ記事の構成案作成などで活用。
- Perplexity AI: Web検索と連携し、最新情報に基づいた回答や、情報源を明示したリサーチが得意。技術調査やトレンド把握に重宝。
- GitHub Copilot: コーディング中にリアルタイムでコード補完や提案をしてくれるAIペアプログラマー。一度使うと手放せない存在に。
- Midjourney / Stable Diffusion: テキストから画像を生成するAI。デザインのラフ案作成や、素材画像のイメージ作りに活用。(当時はまだ業務利用は限定的でしたが、可能性を感じていました)
これらのツールを、案件の種類や作業フェーズに応じて使い分けることで、私の制作プロセスは劇的に変化していきました。
AI導入で制作効率が10倍に!?具体的な活用事例
「AIが仕事を奪う」という悲観論も耳にしますが、私はむしろ「AIは人間の能力を拡張する最高のツール」だと考えています。実際にAIを業務に導入することで、私の制作効率は感覚的に5倍から10倍に向上しました。
AI活用による劇的なビフォーアフター
LP制作1案件にかかる時間の比較
(デザイン、コーディング、テスト全て)
(指示出し、調整、最終チェックが主)
具体的なAI活用シーン
- ワイヤーフレーム作成: AIにサイトの目的やターゲット層を伝え、構成案を複数提案してもらう。
- デザインカンプ作成補助: AI画像生成でメインビジュアルのイメージを掴んだり、配色パターンを提案してもらう。
- HTML/CSSコーディング: デザインカンプを元に、AIに基本的なHTML構造とCSSを生成させ、それを手直しする形に。レスポンシブ対応もAIがベースを作成。
- JavaScript実装: スライダーやアコーディオンなどの動きは、ほぼAIに指示して生成。複雑なロジックもAIと対話しながら構築。
- コンテンツ作成: キャッチコピーや説明文の草案をAIに複数出してもらい、それをリライト。SEOキーワードの提案も。
- テスト・デバッグ: コードのエラーチェックや、クロスブラウザ対応の確認事項をAIにリストアップしてもらう。
もちろん、AIが生成したものをそのまま使えるわけではありません。最終的な判断や調整は人間の仕事です。しかし、面倒な単純作業や、アイデア出しの初期段階をAIに任せることで、人間はより創造的で本質的な業務に集中できるようになったのです。
エピローグ:AIは脅威か、それとも最高の相棒か?
- 生成AIは、クリエイティブな仕事のあり方を根底から変える可能性を秘めている。
- AIを単なる「効率化ツール」としてだけでなく、「思考の壁打ち相手」「アイデアの源泉」として活用することで、人間の創造性はさらに拡張される。
- AIの進化は止まらない。常に新しい情報をキャッチアップし、積極的に試してみる姿勢が重要。
- AIに仕事を奪われることを恐れるのではなく、AIをいかに使いこなし、自分の価値を高めるかを考えるべき。
- 30代からでも、新しい技術を学ぶのに遅すぎるということは決してない。むしろ、これまでの経験とAIを組み合わせることで、独自の強みが生まれる。
AIとの出会いは、私のWeb制作者としてのキャリアに、まさに革命をもたらしました。制作効率が飛躍的に向上したことで、より多くの案件をこなせるようになり、収入も大幅にアップ。そして何よりも、仕事に対する মানসিক的な余裕が生まれ、新しい技術や表現への探求心が再び燃え上がってきたのです。
「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安は、私の中ではいつしか「AIと共に新しい価値を創造できる」というワクワク感に変わっていました。そしてこの経験が、私を次なるステージ、「独立」へと導いていくことになります。